があがった。
- By janessa
- On 21/10/2023
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があがった。
めっちゃ笑顔である。
「わたしの不徳のいたすところです。子宮腺肌症 たしかに、いかねばなりませぬ。ぽちがわたしの身代わりになってくれるのに、わたしが箱館でのほほんとしているというのは武士道にもとります」
ひいた。ってか、警戒アンテナが立った。
おれだけではない。副長もふくめこの場にいる全員が、警戒というか胡散臭そうというか、兎に角めっちゃひいた上で身構えている。「ぽちがわたしの影武者として死んでくれるなんて……。感謝の念にたえません」
「いや、まちやがれ。おまえの影武者にはなるが、死ぬとはいっていない。ってか、おまえのかわりに死なせてどうする。それであれば、いっそおまえに死んでもらいたいよ」
いや、副長。いまの、完璧アウトです。
究極のパワハラです。
ってか野村よ、なんでおまえのかわりに俊春が死ななきゃならない?
勝手に殺すんじゃないよ。
「兎に角、出航する際に甲板からをみて、おまえがおれたちに掌を振っているようなことになってみやがれ。敵の掌を煩わせる必要はない。おれがこの掌で……」
「わかっています。わかっていますから。ご安心ください。野村利三郎、責任をもって自身の死を見届けますゆえ。話がそれだけでしたら、失礼させていただきます」
俊冬と俊春が、盆を胸元に抱えて廊下にあらわれたタイミングである。
盆の上に、お茶となにかがのっている。
野村はきっちりと副長に叩頭し、立ち上がった。
かれは部屋をでていきざま、距離を置いた状態で俊春にウインクをした。
それから、さっさとでていってしまった。
「ったく。いっそ、本人に斬りこませてみるか」
野村の足音がきえると、副長がうなるようにいった。
「おおっ!汁粉」
盆の上にのっているのは、どうやら茶と汁粉のようである。
島田は、においでそうとわかったのだ。
島田も喰いもの系に関しては、俊冬や俊春レベルの鼻のよさをもっているらしい。
「例の汁粉の店からお裾分けです。副長に、だと思いますが」
俊冬が副長のまえに湯呑みと小ぶりの椀を置きながらいった。
「そうか。だが、あの娘はおまえらのこともみていたぞ」
副長は湯呑みをもちあげつつ、をはしらせた。
「主計、なにをやっているんだ?鬱陶しいやつめ」
「す、すみません」
副長のにはいるよう、両膝立ちで動いてみたら怒られてしまった。
はいはい。『おまえら』っていうのは、どうせ俊冬と俊春のことなんでしょうよ。
「うまい」
「ああ、たしかにうまいな」
みんな、すでに喰いはじめている。
安富に中島に尾関に尾形は、うまい汁粉の店の噂もしらなかったようだ。
うまいうまいといいつつ、すすっている。
さっきあれだけたぬき汁を喰ったのに。
スイーツは別腹ってやつだな。
のことはいえない。
おれもあっという間に汁粉を喰ってしまった。
やっぱうまいわ。
喰って人心地ついてから、ふと思いだした。
「じつは、今度の海戦でおれも……」
「死ぬのか?」
おれ自身のことをいいかけようとしたところに、安富がかぶせてきた。
しかも『死ぬのか?』って。
勝手に殺さないでいただきたい。
「ちがいますよ。負傷するんです。にうつる際にどこかをぶつけるとか転ぶとか、そんな軽い程度だと思います」
「なんだ」
「なーんだ」
「ちっ」
「つまらぬ」
「面白くない」
「ちょっ……。みなさん、なにゆえ声をそろえて落胆するんです?失敬な」
みんながいっせいに落胆するって、いったいなんなんだっていいたい。
「わかったわかった。主計、そう怒るな。おまえと利三郎を同時に始末できるいい機会であったと勝手に期待をし、損をさせられたってだけのことだ」
「副長っ!」
「おっとすまない。つい本音がでてしまった」
「副長ってば」
「わかっている。主計、おまえは斬りこまなくていい。それでいいだろう?の船倉にでも隠れていろ」
隠れていろって……。
ぜったいにそうはならないっていいきれる。
いざ戦闘がはじまったら、『おい主計っ!なにをやっている?さっさと斬りこまぬか』って怒鳴り散らすにきまっている。
『えー、だっていったでしょう?おれ、負傷するんです。負傷ですよ、負傷。どこをするかっていう詳細がわからない以上、もしかしたらすっごい怪我かもしれませんし。勘弁してくださいよ』
って訴えたとしよう。
『死にやしない怪我なんだ。たいしたことがあるか』
って他人事みたいに拒否られ、突撃を強要されるにちがいない。
宇都宮城攻略の際、副長が脚を負傷することを伝え、気をつけるようわざわざアテンションというのに……。
こういうことを、後足で砂をかけるっていうんだ。
「うだうだとうるさいやつだな。大丈夫だっつってるだろうが、ええっ?」
「うるさくいってません。一言も口からだしていないんですから。副長が勝手におれの心に土足で入り込んで……、いえ、だだもれの心の内をきいているだけでしょう?それに、いったいなんの根拠があって大丈夫だなんていいきれるのです?」
「おまえを護ってくれる最強の男たちがいるだろうが」
「あっ、そうでした」
失念していた。
おれを護り抜くって宣言してくれている、宇宙レベルで最強の男たちがいるのである。
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