これがフツーに泳ぐ時
- By janessa
- On 21/10/2023
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これがフツーに泳ぐ時期でフツーの場所なら、たとえ親子の関係でなくっても微笑ましい光景かもしれない。
が、いまはフツーの時期ではないしフツーの場所でもない。フツーの親子どころかフツーの肉親関係ですらない。
俊冬はおれがこれだけ頼んでいるのに、っていうか頼んだ瞬間、おれの両手首から自分の掌をはなした。
このいじり方っていうか虐待は、「太江丸」の艦上のときよりひどい。
「ぽーーーーいっ!」朱古力瘤
「ひいいいいいいいいっ!」
海の上を飛びつつ、『おれのまだみぬ妻よ、さきゆく不幸をってか、会えなくってごめんなさい』って、未来のまだみぬ妻に謝ってしまった。
ひええええっ!どんだけ飛んでいくんだ、おれ?
すごいはやさで飛翔している。のほうから、みんなの笑い声がきこえてくる。
とくに副長と野村の馬鹿笑いが、おれとおなじはやさで飛んできている。
ムカつくほど愉し気な笑い声が、超絶耳障りだ。
「きみは『まだみぬ妻、まだみぬ妻』っていうけど、これだけ史実を捻じ曲げておきながら、きみ自身のおいしい史実だけそのとおりにしようなんて、厚かましいにもほどがあるよね」
体に衝撃があった。しかしそれは、体が海面にぶちあたったものではない。
俊春である。かれは立ち泳ぎをしながら両腕をあげ、飛んできたおれを見事キャッチしてのけたのだ。
「いらんお世話だよ。いいじゃないか。おれの人生で唯一華やかな出来事なんだから」
「ふーん、どんなかわからないのに?それでもそういいきれるわけ?」
かれはおれを万歳の姿勢でもちあげつつ、立ち泳ぎで岸へとむかってゆく。
ってか、マジかよ。
あれだけ錨鎖を巻きつけておいて、沈まないってだけでもとんでもないことである。それどころか、おれをもちあげ立ち泳ぎするなどと想像の斜め上をいきすぎている。
ちっちゃいくせに、馬鹿力なんだから。
「あー、なんだか腕がつかれてきたかも」
「ちょちょちょ、ちょっとまって。ごめん、失言だ。ってか、失言じゃないな。だって、なんにもいってないんだから」
「『ちっちゃい』って思わないで。それに、この力は遺伝子だけのものじゃない。きみ、エジソンの名言をしっているだろう?」
「『一パーセントのひらめきと九十九パーセントの努力』ってやつだろう?わかってるって。きみもたまも、ストイックどころか地獄レベルの鍛錬をかかさないだろう?いまだってそうじゃないか。くだらぬ命令に従っているというよりも、鍛錬をやっている。おれにはとても真似できない。ってかなんなんだ、その海草だらけの体は?」
「海中にいっぱいあるからね。とってみたけど、つい調子にのってしまって駕籠に入りきらなかったんだ。だから、てっとりばやく鎖に巻きつけたってわけ」
かれは、鍛錬のことにはわざと触れなかった。だから、おれもそれ以上なにもいわなかった。
海上をぶっとぶ、などというアトラクション付きのいじられ方だった。が、結局のところほぼ濡れずにすんだ。
このヒトデ捕獲大作戦も、いつものごとくかれらのすごさの一端をみせつけられただけであった。
にもどると、俊冬と俊春は錨鎖を体からはずした。それから、フツーに手拭いで体を拭いてフツーにシャツを着、フツーにズボンをはいた。
さすがに、軍靴ははかず素足のままでいるようだ。
お利口さんである。軍靴のなかに砂がなかにはいりこんでしまうと、気色悪い思いをするのがわかっているからだ。
それは兎も角、二人はこのクソ寒さがちっとも身にしみていないみたいである。
驚異的な身体構造と鈍感っぷりだ。
一方、おれはみんなから「へたれ」だの「情けない」などとをあびた。
せっせと手足を拭いている間に、俊冬と俊春が戦利品を並べはじめた。
わかめと昆布はもってかえって料理につかうという。
蝦夷は、昆布が名産である。とくに利尻は超有名だ。
めっちゃ高い。ゆえに、ちょっと味噌汁や煮物の出汁をとるっていうときに、利尻の昆布をつかうというのはもったいない。
もちろん、昆布は利尻だけではない。この松前もとれる。
肉厚のいい昆布である。
そして、それ以上に目をひいたのが……。
「こ、これってウニ?ウニ、だよな?」
大量のいがいがとげとげをみおろしながら尋ねた。
「これがウニじゃなくって、栗だっていうほうがびっくりだけどね」
そんなかわいくないことをいうのは、かっこかわいいの俊春である。
「ムラサキウニ、かな?」
「たぶん。時期がすこしはやいかも。でもまあ、ウニだからね。うまいだろう」
「で、どうするつもり?」
最強最高のシェフである俊冬に尋ねると、かれは副長そっくりのイケメンににんまりと笑みを浮かべた。
「まずはここで生、それから焼いて喰ってみる?残りは、称名寺にもどってからウニ丼か寿司ってのはどうかな?」
うおおおおおおっ!
俊冬、神対応すぎる。
その旨副長に伝えると、意外にもウニを喰ったことのない者がおおいことがわかった。それどころか、その存在をしらぬ者もいる。
市村と田村などは、割ってさしだされた第一声が……。
「これ、なめくじだよね」
「そうだよ、へんな色のなめくじだ。うわっ、きしょっ!かようなものを喰うのですか」
とんでもないことをいいだした。
なめくじ?
まあ、たしかにみえなくもないが、こんな高級食材をなめくじ呼ばわりするなんて、発想が斜め上をいきすぎてるし、それ以上に畏れおおすぎる。
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