を細めて俊冬をみつめた
- By janessa
- On 21/10/2023
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を細めて俊冬をみつめた。が、すぐに「そのとおりである」を示すかのように、おおきく一つうなずいた。
「誠に、たまのいうとおりであろうか?近藤局長は面倒くさそうなことは、『スルー』というのであったかな、主計?兎に角見事なまでにスルーされていた気がするのだが……。であれば、副長は?副長は、いまや局長という立場だ。なれど副長は、いちいち手だし口だし、ついでに顔だしを過剰以上にされている。控えるどころか、以前よりひどくなっている気がするのであるが」
「斎藤?」
副長が、朱古力瘤 斎藤の暴言に振りまわされているのをみるのはおもろすぎる。
これはもはや、『カ・イ・カ・ン』である。
ってか斎藤、あんたやっぱり近藤局長や副長にたいして、胸に一物どころか千物以上あるだろう?
「斎藤先生」
俊冬が斎藤を呼んだ。
かれの副長似のイケメンには、呆れかえったというよりかは『どんな暴言や悪口でもすべてを受けいれましょう』的な、神様の笑みが浮かんでいる。
「すべて気のせい。気・の・せ・い、です」
俊冬はあっさりと結論をくだしたばかりか、強引にシメてしまった。
シンプル以上の着地っぷりである。
「ふむ。気のせい、か」
斎藤は、二度三度とおおきくうなずいている。
ちょっとまて、斎藤。いまので納得するのか?
「副長、いまのうちにつづきを」
俊冬は斎藤がうなずいているのを横目に、副長を急かした。
「もうだれもなにもいうなよ。それから、なにも思うなかんがえるな。とくに主計、無心でいろ」
「そ、そんな……。なにも思うなってムチャぶりな。それこそ、民主主義の精神に反して……」
「やかましいっ!兎に角、ききやがれ。おまえ自身のことだ。おまえのことを、隊士たちに告げたほうがいいんじゃないかとかんがえている。おまえはどうだ?」
副長にいっきにまくしたてられ、その内容を理解するまでにしばしのときを要した。
「これからさき、死ぬやつも増えてくるのであろう?このまえの伊藤や菊地のように、そのつど理由をつけては遠ざけるのはいい。だが、遠ざけられる当人にとっては、怪我をしているわけでもなく落度があるわけでもなく、かような状況で突然遠ざけられれば不服に思うであろう。いま残っているのは、信頼のおける連中ばかりだ。真実を告げて信じる信じぬのは兎も角、必要もないのに他言したり伝えたりってことはないと、おれは信じている。わけのわからぬで前線からはずされるより、「おまえは死ぬことになっているから、此度は出陣せずに残っていろ」といったほうが、納得するはずだ。まぁ動揺はするであろうが。それで怖くなって逃げだすんなら、それはそれで仕方がない」
副長は、そこでいったん言葉をきった。
おれが反応しないのを確認してから、また口をひらく。
「無論、おまえしだいだ。いわないでくれっていうんなら、そうする。主計、おまえも怪しげな占い師だの予言師だのといわれるのも、不本意であろう」
イケメンに、やさしい笑みが浮かんでいる。
最後の怪しげな占い師や予言師ってところは別にしても、たしかに副長のいうとおりである。
いっそ真実を告げ、そのうえで命令をだしてそれに従ってもらう方が、どちらにとってもやりやすいだろう。
先日の伊藤や菊地も、わけのわからぬ命令で若松城に残留させられた。どちらもなんの異論もなく、それどころか理由すら問うこともなく命令に従ってくれた。だが、心のなかでは不服だったにちがいない。そして、「なんの落ち度もないのに、なにゆえ戦に参加できぬのだ?」って、へこんだかもしれない。
おれのことを告げれば、そういう精神的なダメージはなくなる。が、そのかわりにちがう意味でのダメージをうけるかもしれない。
「おまえ、死ぬことになっているぞ。だから、此度は残れ」
っていわれて、気持ちがいいわけはない。
そんなふうに告げられたら、その場所にいることすら怖くなるだろうし、逃げだしたくもなるだろう。
いや、いっそそれならまだいい。怖いのは、真逆の感情を抱くことである。つまり、へんに強がったり意地になってに立ち向かうかおうと意気込んでしまうことである。
「わかりました。告げてください」
しばしを費やした後、結局そう答えていた。
ずっと悩んでいたことである。隠しているのはフェアじゃないとも思っていた。
ゆえに副長に打診されて、そんなに悩む必要はなかった。
これまで悩んでいたのも、告げる告げないではなかった気がする。
他人事みたいであるが、告げるタイミングについて悩んでいたのかもしれない。
自分のなかでは、告げることはきめていたと思う。
だって、みんなから「主計、すっげー」って感心したり、感動してもらいたい。
そんな気持ちも抱いているのだから。
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